【コラム】育種を始めて40年。風にたなびく野に咲く花のようなばらを作るために

【コラム】育種を始めて40年。風にたなびく野に咲く花のようなばらを作るために

Farmツアーも再開できない今、WABARAが考えていること、國枝啓司が考えていることをみなさまにお伝えしたいと思い、そして、私たちも未来のWABARAのために記録しておきたいと思い、國枝啓司へのインタビューをお願いしました。


不定期の更新ですが、農園の風景とともにお楽しみいただけると嬉しいです。


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ばらを作り続けて今年で40年。
今回は、國枝啓司が育種の方法やお花たちの個性についてお話ししました。


25年間は思い描くようなお花を作れなかった


− 啓司さんの目指されているばらは、どのようなばらなのですか?

風にたなびくようなばらを作りたいという思いでずっとやってきました。私が目指しているのは「ばららしくない花」なんですよ。

− ご自身が思い描いたお花が作れるってすごいことですよね。そもそも、ばらの育種はどのように行っているのでしょうか? 
まずどのお花を親にするのかを決めて、ピンセットや筆で雄しべと雌しべを受粉させるんです。受粉させたら袋をかけて大体5ヶ月くらいはそのままにしておきます。そのあと、できた種を取り出して撒く作業に入ります。



− どのくらいの確率で思い描いたお花になるものなのですか?

交配させてできた種を何千とまいても、切り花になるのはひとつあればいいほうです。育種をはじめて40年になりますが、最初の25年間は売れる花をほとんど作ることができませんでしたね。まず、良い子どもを生んでくれる親、つまり自分の思っている花の形や性質を持つ親を交配して作るわけですけど、それができあがってそこから様々な色の子どもを生んでもらえるように育てていきます。

−親を作るだけでも相当な年月がかかっているんですね。
そうです、25年くらいかけて良い親を作って、そこから現在までで新しい子どもを作ってきた感じですね。


− 今65品種あると思いますが、そのお話を伺うとその数がどれだけすごいことなのかがわかります。
そうなんですよね。ただ、幸いなことに突然変異っていうものがあるんですよ。これは葵という品種なんですけど、葵から突然変異が起こっていおりが生まれたんです。木は同じなんですけど、花の色だけ変わるんです。葵の中にある色素が出てくるんですよね。

− すごくかわいいですね。これだけでブーケにしたいです。
そうそう、これでブーケを作っても素敵ですよね。

− 花びらの形も違うんですね。突然変異っておもしろいです。
おもしろいですよ。突然変異がなかったら和ばらは20品種にもいかなかったかもしれないです。



− それってすごくわくわくしますね。

うん、一番目のわくわくは掛け合わせて花を咲かせる最初の段階なんです。最初ってお花の大きさがすごく小さくて。そのお花を育てていくと大きさや枝葉などが実際の花の姿になっていく。その変化もおもしろいんですよね。

その変化を楽しめるのは育種家だけ。
でも1番目の花姿が本当に可愛くて。その姿をご自宅で楽しんでいただけるように、「おへやで育てるばら」も誕生しました。



お花の大きさもひとつの個性

− よく見るとお花のサイズもそれぞれ結構違いがありますね。
同じ品種でも枝の太さによって花の大きさは多少変わります。
こういうふうに、ひとつの枝にたくさんのお花がついているものをスプレータイプとか房咲きっていうのですが、スプレータイプはお花の大きさが小さいんです。逆にひとつの枝にひとつのお花が咲くスタンダードタイプは、大きなお花が咲きます。

− たくさんお花がついているスプレータイプも一輪だけのスタンダードタイプも、ひとつの枝なので同じ「一本」という表現になるんですね。
そうですね。はじめてだと驚かれるお客さまもいらっしゃるかもしれませんが、最近ではご存知な方も多いので、スプレータイプのお花を好んでもご購入される方もいらっしゃいますよ。それぞれに個性がありますので、その時々に合わせてお選びいただければいいのかなと思います。


− お花も自分の大きさというか、特性をわかっているんですね
うん、お花もちゃんとわかっていますよ。軸と花の大きさのバランスなんかは考えて作られています。単に大きい小さいいではなく、そういうお花ひとつひとつの個性も楽しんでもらたら嬉しいです。



▼お話を伺った人

育種家 / 國枝啓司  KEIJI KUNIEDA
1956年、滋賀県生まれ。
1976年に父である國枝栄一が営むバラ園に就農しキャリアをスタート。
1981年、フランス、ドイツ、オランダでの研修で学んだ思想や技術をもとに、いつか「世界中の花屋さんに並ぶバラを作る」ことを夢見て育種家としての活動を開始。
1993年に今上天皇と雅子皇后のご成婚時に雅子皇后自ら選んでいただいたバラ「プリンセスマサコ」を献上。
2003年独立し、現ばら園「ローズファームケイジ」を設園。
2006年、日本の文化・美意識を反映した草花のようなばらのシリーズ「和ばら」をスタート。
そこから約10年をかけて慣行栽培から土耕栽培への移行を実施するとともに、全てオリジナル品種「和ばら」のみを栽培する農園となる。
現在まで60品種あまりを世に出す。

「WABARA」として海外でも高い評価を受け、現在ケニア、コロンビア、アメリカ、イギリス、メキシコ、フランスに提携農園があり、2017年より世界に向け出荷開始。当初志した世界中の花屋さんに並ぶバラの夢が実現し始める。
好きな花はコスモス。まさかの答えだが、風にたなびくばらを目指す由縁である。


(文 / 帆志麻彩 写真 / 高崎健司)

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